東京地方裁判所 平成3年(ワ)10667号 判決 1992年2月28日
原告
X
右訴訟代理人弁護士
小澤徹夫
被告
Y
右訴訟代理人弁護士
川島英明
主文
一 被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載1及び2の各不動産についていずれも、平成二年三月一五日遺留分減殺を原因とし原告の持分の割合を六分の一とする持分一部移転登記手続をせよ。
二 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
≪請求≫
主文第一項と同旨
≪事案≫
一 争いのない事実
1 Aは、別紙物件目録記載1及び2の各不動産(以下「本件不動産」という。)を所有していたところ、平成元年二月一〇日付け公正証書遺言により、本件不動産を含む財産全部を被告に相続させる旨の遺言をして、同年三月一七日死亡し、その相続人は、二男の原告及び長女の被告並びに既に死亡していた長男Bの子二人(長女C及び二女D)である。
本件不動産について、平成三年三月二五日、右相続を原因とする被告への所有権移転登記がされた。
2 原告は、右Aの相続財産について六分の一の遺留分を有するので、被告に対し、平成二年三月一五日到達の書面で、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
二 原告の主張
本件不動産については、右遺留分減殺の効果として、原告が六分の一、被告が六分の五の各割合(相続分)によるいわゆる遺産共有の状態になった。
よって、原告は、被告に対し、遺留分減殺による遺産共有権に基づいて、本件不動産につき前記≪請求≫のとおりの登記手続を求める。
三 被告の反論
原告は、遺産分割の手続を経ない以上、本件不動産について具体的な共有持分権を有しないから、本件のような登記請求はできない。
≪判断≫
Aが死亡した時点で、本件遺言の効果として、被告が本件不動産を含むAの全遺産を取得したが、原告が遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件不動産を含む全遺産について、原告と被告との間では原告が六分の一、被告が六分の五の各割合(相続分)によるいわゆる遺産共有の状態になったといえる。
そうすると、原告は、本件不動産について、遺産分割の手続を経ていない以上、具体的な共有持分権を有するものではないが、右にいう遺産共有権に基づいて、単独相続の所有権移転登記を得ている被告に対し、これを右各割合(相続分)による共同相続の状態にあることを示す登記に是正するよう求めることができるというべきである。けだし、一般に、遺産分割手続前の遺産共有の状態においても、相続人は、遺産を構成する個々の不動産について、相続人全員の各相続分に従った共同相続の登記を得ることができ、相続人の一人が右遺産共有の状態に反して単独相続の所有権移転登記を得ているときは、遺産共有権に基づいてその是正を求めることができる(この場合は更正登記による。)ところ、本件のように遺留分減殺請求権が行使された効果として遺産共有の状態になった場合を右一般の場合と区別する合理的理由はないし、遺留分減殺請求権行使の効果を第三者に対抗するために必要でもあるからである。
そして、本件のような場合における右是正は、更正登記の方法によるのではなく、遺留分減殺請求権が行使された効果として遺産共有の状態になっていることを忠実に示すべく、当該遺留分減殺を原因とする持分の移転登記の方法によるのが相当であり、本件では、被告から原告への、平成二年三月一五日遺留分減殺を原因とし原告の持分の割合を六分の一とする持分一部移転登記がされるべきである。
以上の次第で、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。
(裁判官 貝阿彌誠)